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【インタビュー】島根県の社会医療法人仁寿会が取り組む院内感染対策のデジタル化(後編)

前編では、社会医療法人仁寿会での医療従事者のためのワクチン接種記録・抗体価管理システム「harmoワクチンケアfor healthcare worker(以下、HWシステム)」導入の背景と初期段階の取り組みについてご紹介しました。後編では、導入後の成果や職員の意識の変化、今後の展望について、引き続き上田さん(社会医療法人仁寿会 加藤病院 衛生管理者)のインタビューを通じて詳しくお伝えします。




導入による意識の変化と成果


──HWシステム導入後、職員の意識に変化はありましたか?


上田:「検査も接種も済んでいると思っていたが、実は足りていなかった」と気づく職員が見受けられ、自分の健康は自分で守るという”自己保健義務”という意識が高まりました。それに伴い、法人全体としてもあらためて感染対策への意識が向上しています。職員自身が自分の抗体価状況を把握できるようになったことは、大きな変化です。


──HWシステムを導入してよかったと感じたエピソードはありますか?


上田:管理者が職員全体のワクチン接種記録と抗体価を把握できるようになったことで、これまで見過ごされていた管理体制の課題に気づくきっかけとなりました。 たとえば、医療関係者向けのワクチンガイドラインが出された2009年頃に一斉検査を実施した際、「検査をしたことで接種記録や抗体価管理が完了した」と思い込んでいたのですが、実際にはそうではなかったことが分かり、大きな収穫だったと感じています。


また、最近入職した職員などは、学生時代の実習前に必要な接種や検査を済ませているため接種や検査が完了していると思い込んでいたケースもありましたが、確認してみるとワクチン接種が不足していたといった見落としに気づけたことも、導入の成果のひとつです。


接種状況にも変化があり、これまでB型肝炎ワクチンの接種が進んでいなかった職員にも接種が広がり、院内感染対策が前進しました。


その結果、以前はガイドラインに沿ったワクチン接種や抗体価管理ができていた正職員は半数程度でしたが、HWシステムの導入により、現在ではほとんどの正職員が基準を満たすようになりました。


高齢者が多い地域特性を踏まえると、職員のワクチン接種がきちんと完了していることは、安心感につながっています。


こうした一連の取り組みを通じて、職員一人ひとりの接種状況の把握と管理体制の見直しが進み、院内全体の感染対策が着実に強化されていると感じています。


★さらに詳しい内容は、上田さんが日本慢性期医療学会にて発表予定であり、現在準備を進めてくださっています!続報をお待ちください。




ワクチン接種記録・抗体価管理の体制と業務効率の変化


──導入によって、ワクチン接種記録・抗体価管理の体制や業務効率に変化はありましたか?


上田:導入にあたって、ワクチン接種記録と抗体価の記録をすべて見直すことができたのは非常に良かったです。これまで分散していた情報が、一つの画面で一元的に管理できるようになり、現場としても大きな進歩を感じています。


作業時間に関しても、紙で提出されたワクチン接種記録を探す手間がなくなり、必要なデータをすぐに確認できるようになりました。業務の流れが整理され、効率化につながったと実感しています。


──現在、社会医療法人仁寿会では、harmoワクチンケアが提供・開発する予防接種に関連した3つのシステム「ユーザー管理ツール」「ユーザーアプリ」「医療機関アプリ」をすべてご活用いただいています。



  • ユーザー管理ツール:HWシステムにおける管理者向けツールで、施設内のワクチン接種記録や抗体価を一元管理できます。ユーザーアプリと連携することで、個人の記録を施設側でも確認・管理可能です。

  • ユーザーアプリ:スマートフォンからワクチン接種記録や抗体価を簡単に確認・入力できるアプリです。個人の記録管理はもちろん、ユーザー管理ツールと連携することで、施設でのワクチン接種記録・抗体価管理にも活用できます。医療機関アプリを導入している施設でワクチン接種を受けると、正確な接種記録が自動で反映されます。

  • 医療機関アプリ:医療機関でワクチン接種時に使用するアプリです。接種履歴や年齢に基づいて、その日の接種可否を自動で判定し、ワクチンの箱にあるバーコードを読み取ることで、正確な情報を簡単に登録できます。安心・安全なワクチン接種をサポートします。 職員のワクチン追加接種時に医療機関アプリを使用すると、医療機関で登録された接種記録がユーザーアプリに自動反映され、同時にユーザー管理ツールにも表示されます。これにより、職員の方の手入力や、管理者の確認作業の手間が省け、管理の効率が大きく向上します。


──社会医療法人仁寿会で実際に使ってみてのご感想や、今後の活用についてのご意見をお聞かせください。


上田:追加接種をする際に医療機関アプリを使うと、記録が自動的にユーザーアプリにも、ユーザー管理ツールにも反映されるので非常に便利です。医師や看護師が登録した正確で詳細な記録が残る点も安心感があります。職員の接種件数はそれほど多くありませんが、最近では外来患者さんへの対応で、子宮頸がんワクチンなど接種間隔を間違えやすいものへの対応が必要なケースも増えてきました。


そうした場面では、患者さん自身も接種間隔を理解していないことが多く、来てみたら接種間隔が足りなかった、といったケースもありました。今はまだ職員内での活用のみで外来患者さんにはユーザーアプリの案内はしていませんが、今後は医療機関アプリの活用も広げていけたらと考えています。




今後の展望と期待


──今後のHWシステムの活用に関する展望について教えてください。


上田:現在は正職員が中心ですが、今後は非正職員も含めて全職員への導入を進めていきたいです。


ワクチン接種記録や抗体価管理の重要性をより広く浸透させていくためにも、全ての職員に拡大していきたいと考えています。


──今後HWシステムに期待することはありますか?


上田:ユーザーアプリは便利ですが、高齢の職員には操作が難しい部分もあり、画面のどこをタップすればいいのかが直感的に伝わらないこともありました。今後は、操作の流れがもっとシンプルで分かりやすくなると嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。


──ありがとうございます。今後も現場の声を反映しながら、医療従事者に寄り添ったシステムにしていきたいと思います。



衛生管理者 上田さん(左)と社会医療法人仁寿会 理事長 加藤節司医師(右)




まとめ


社会医療法人仁寿会では、HWシステムの導入により、限られた人員や時間の中でも、職員一人ひとりが自分の健康状態を把握し、安心して働ける環境づくりが進んでいます。紙やExcelなどによる煩雑な管理から、現場に即したデジタルツールへの移行を実現したことで、地域医療を支える現場の安全性と業務効率が着実に向上しつつあります。


CCO Lab.では、現場の声をもとにHWシステムの改良を重ねてきました。使いやすさと現場の実情に寄り添った開発を続けながら、2026年秋の正式リリースに向けて、今後もより良いサービスの提供を目指してまいります。