現在、シミックホールディングス株式会社CCOLabでは、医療系大学および医療従事者のためのワクチン接種記録・抗体価管理システム「harmoワクチンケアfor healthcare worker(以下、HWシステム)」を開発中です。
前回の記事の最後で、HWシステムは星薬科大学の先生方や学生のみなさんにご協力いただき、試験的に運用していることをご紹介しました。
そこで、今回は星薬科大学の平出誠先生にHWシステムのプロジェクトにご協力いただいた背景や経緯についてお話を伺いました。
───はじめに、平出先生のご経歴を教えていただけますか
教員になる前はがん専門病院の薬剤師として9年間、患者さんへの服薬指導や抗がん薬の調製業務などに従事してきました。勤務するうちに、業務を通じて経験した疾患や医療に関する知識を学生に伝えていきたいと考えるようになり、2020年に大学へ移って5年目になります。
現在は、臨床薬剤師の育成に関わっており、個々の患者さんに沿った治療を深く考えることができる「臨床に強い薬剤師」を輩出すべく尽力しています。
───今回HWシステムのプロジェクトにご協力いただくまでに、どのような経緯がありましたか
薬学部では、薬剤師教育のカリキュラムとして、5年次に病院や薬局などで実務実習を実施しています。実習に行く全ての学生には、感染対策の観点から予防接種の記録や罹患歴、抗体検査結果などの提出が求められていますが、これまでは学生一人ひとりのワクチン接種歴・罹患歴などは母子手帳のコピーや接種証明書といった紙書類で提出してもらっていました。
それらの提出された膨大な書類は、大学の事務員さんが1枚1枚手作業で内容を確認しており、人に依存した作業になってしまうことから効率性や正確性が欠けるという点が大きな課題でした。 なんとかこの状況を改善できないかと考えていたのですが、ある時、シミックの社員さんとお話する機会があり、「予防接種歴や罹患歴などの管理に大きな課題を持っている」ことをお伝えしたところ、もしかしたら解決できる方法があるかも知れないとお話いただいたのが、最初のきっかけでした。
そこで、本学とシミックが協力して予防接種関連の煩雑な情報管理を簡単にできるシステムを開発してみようということになり、このプロジェクトが始まりました。
───プロジェクトに参加されてどのように変わったのでしょうか
実は、プロジェクトが始まる直前に新型コロナウイルスが流行したのをきっかけに、それまで紙のみで提出していた書類はアンケートツールを活用したオンラインとのハイブリッド提出に切り替えました。この変更により、「全て紙」という状況から一歩だけ前進し、業務の負担が少しだけ軽減されました。
しかし、学生側がアンケートツールに情報を入力・提出する際には、母子手帳や予防接種証明書の情報を紙書類に記載した上でPDFに変換してアップロードしなければならない。大学側としても学生から送られてきたアンケートツール上の情報を紙書類として出力して、医療機関ごとに提出できるよう整理する作業は変わらず必要で、当初から比べれば少し作業量は軽減されたものの、まだまだ大変な部分がありました。
それがHWシステムを導入したことで、ワクチン接種情報の収集も管理もとてもスムーズになりました。
実際に、大学で本システムを活用した事務員さんからは、各学生の情報を画面上で確認できるようになり非常に楽になったという声と、チャット機能を活用することで事務員と学生がインターラクティブに情報を交換できるようになり、スムーズなコミュニケーションが可能になったという声も多く聞かれました。
管理に関しては、従来の手書き文字は読みづらさが原因でミスを引き起こすことがありましたが、デジタル化によって整った数字や文字で表現されるようになり、視覚的なミスが減らせるという意見もありました。この点は非常に大きなメリットだと感じています。
───学生さんからのご意見もありましたか
やはり、紙書類を提出しに行かなくてよくなったことや、チャットでやり取りができる点がLINE世代には合っているようです。既読が表示されるので自分が送ったメッセージが確実に相手に届いていることを確認できるという安心感や、メールのように丁寧な文章として完成させなくても気軽に一言だけで返信できるスピーディーなところも高く評価されていました。
───HWシステム導入に関して大変だった点はありますか
導入に関しては、複数の教員の後押しもあって比較的どんどん進んだという印象ですね。本学の中にも、もともとHWシステムのような管理システムを開発したいという考えをもっていた教員もおり、良いタイミングで実証実験の機会が得られたという流れでした。 まだ本システムはテスト運用中ではありますが、学生たちからの感触も良いですし、今後は本学での運用方法について検討し本運用に進めていければと考えています。
───システムの改善点やシミックに期待することを教えてください
現状で大きく困っている点はありません。
表示の仕方やワンクリックでここに飛べたらいいな、などの細かな点を改善できたらいいですね。
今は業務効率化という観点でこのシステムを使用していますが、今後は本学の学生に限らず、医療系の学生全てがヘルスケアアプリを活用するなど、医療DXに対して興味を持ってほしいと思います。
これからはパーソナルヘルスレコード(PHR)システムなども広まってくると思いますし、ワクチン接種の情報に限らず蓄積された情報データを解析・研究し、その成果を社会に還元していきたいです。将来的には、教育機関からさらに発展させ、医療機関でもこのシステムの有用性を実感できるようにし、活用の場を広げていくべきではないでしょうか。
例えば、医療従事者のワクチン接種歴や罹患歴などをシステムに入れておき、出向先や他の医療機関などでも情報を共有できるようになれば、一度登録するだけでデータの有効活用ができます。現在の医療機関においては、感染管理の観点から職員一人ひとりの接種データや抗体価の管理は必須ですので、実現すれば個人としても医療機関としても非常にありがたいシステムになり得ると思います。
───今後の医療DXに対する思いを聞かせてください
私が薬剤師として働き始めた頃と比べると、デバイスやシステムは大幅に充実してきました。また、業務の中で調べ物をする際や患者さんへの説明に動画を活用するなど、デジタルデバイスを利用する場面が格段に増えています。
学生たちには、電子カルテをはじめとした医療DXやシステムなどに興味を持ってほしいですし、実際に臨床現場で利用されているデジタルスキルも教えていかなければと思っています。 今回、プロジェクトに関わったことで、学生のワクチンに関する意見を聞くことができましたので、今後はその声を活かし、さらに幅広く教育効果を得られるような形につなげていきたいです。
さいごに
平出先生ありがとうございました。
HWシステムは現在2026年リリースを目指して、テスト運用させていただける医療機関を探しています。 テスト運用にご協力いただける医療機関がございましたら、こちらにご連絡ください。